「もっと早く検査してくれていたら」の後に続く、あなたの思いはどのようなものでしょうか。「妊娠するはずもなかったタイミング療法を続けてしまい、無駄な時間やお金や労力を費やしてしまった」でしょうか、「自分がしなくてもよい通院をする羽目になってしまった」でしょうか、それとも、「自分に問題があるかもと思って、責めなくてもよい自分を責めてしまった」とか、「夫の実家から、私のせいで妊娠できてないように思われてつらい日々を過ごした」でしょうか。
「どうしても責めてしまう」のは、もちろん夫に対する怒りもあるでしょうが、同時に自分に対しても怒りや焦り、後悔などの気持ちがあり、そうした自分を責める気持ちが相手に向かっていることもあるかもしれません。その意味では、夫を責めたくなる自分を見つめ直すことで夫を責めることが必要なくなることもあります。
そしてもちろん、夫が謝罪していない、あるいは謝られても真剣みが感じられないなど、あなたの感じている重みが理解されていないことによる怒りから、彼を責めている方も多いでしょう。ましてやそんなときに夫から「時間は戻らないんだからしょうがないじゃないか」なんて言われようものなら、「それを言うのは私ならいいけれど、なぜあなたが言うのか」と余計に怒りが増幅して、こうなるともう泥沼です。
もちろん、このように感じないために、妊活は初めから二人で、というのが望ましいと言えるのですが、実際にはなかなか最初から二人で病院にかかるために話をするのは難しく感じてしまい、「まずは私が」と一人で受診し検査や治療を進めてしまうこともあるでしょう。また、二人で一緒に始められた場合であっても、それまでに妻がずっと検査に行こうと勧めていたのに「まだいいよ」と夫が同意せず、ようやく受診していざ検査をすると男性不妊が判明した、なんてことも珍しくありません。その結果として、なかなか検査を受けようとしなかった夫を責めたい気持ちが出てくるのは理解できます。
ですから、まず、なかなか検査を受けてくれなかった夫に対する怒りが出てくること自体を「よくないものだ」と考えないようにしましょう。怒りを感じることと、怒りに任せて相手を責めることはまったく違うことであると理解してください。感情的に責めてしまう行動は確かにあまり適切ではないやり方ですが、責めたくなる自分がおかしいわけでない、と感情と行動を切り離して考えましょう。怒りや憤りを感じることが問題なのではなく、相手を責めるという形で表現してしまうことが問題になりうるのです。
相手を責めてしまい二人の関係が悪くなったり、責めてしまったあとで自己嫌悪に陥らないようにするにはどうすればよいのでしょうか。大きく分けると、①自分の怒りに振り回されないようにマネジメントできるようになる、②自分の思いを“責める”という形ではなく伝えられるようになる、という二つの方向性が考えられるでしょう。
①の自分の怒りをマネジメントする方法について、いろいろやり方はありますが、最近では取り入れやすい「アンガーマネジメント」という方法がさまざまな書籍やサイトで紹介されていますので、参考にしてもよいと思います。また、怒りだけでなく、自分の気持ちに気づき、そこに価値判断を加えずに扱っていく「マインドフルネス」という考え方も普及してきています。また怒りに振り回されやすい人は自分を大切にすることが苦手な人も多いので、そのような方は「セルフ・コンパッション」という自分自身に対してやさしく接するやり方を習得するのも有効でしょう。これらの考え方は最近ではビジネスでも活用され、多くの書籍やメディアで取り上げられるようになっているので、どれを見て良いのかわかりにくいという問題もありますが、できれば臨床心理士や公認心理師といった心理専門家によって執筆されたものを選ぶようにすると役に立つ確率が高いでしょう。
②の自分の怒りを責めるという形でなく相手に伝える方法についてですが、これは「アサーション」という考え方を身につけることで、攻撃的でなく、あるいは自分の内側にため込むことなく(そしてそれをがまんできなくなって爆発させることなく)自分の気持ちを相手に伝えることができるようになります。これも考え方を知るだけではなく、実際にコミュニケーションを試行錯誤していくことで次第に身についていくものです。
いずれにしろ、気持ちに飲み込まれずに、自分が今どのような気持ちを感じているかを観察できるようになることがとても大切です(感情のモニタリングといいます)。いろいろな本を読みながら、自分一人でできる方もいらっしゃいますが、専門家と一緒に取り組むことで効率よく身につけることができるようになると思います。ぜひ自分のために心理支援の専門家を利用してみてください。