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教育関係者インタビュー

「自分以外の立場だったらどう考えるか」--
社会のプレッシャーに負けない決断力を育む視点とは
国内外で当事者へのインタビュー活動を精力的に行い、生殖補助医療の在り方を医療人類学・社会学の立場から鋭く論じてきた、明治学院大学社会学部教授の柘植あづみ先生。生殖補助医療や検査技術の進展、不妊治療の保険適用が注目を集め、「不妊」が一人ひとりにとってより身近な問題として取り上げられるようになった昨今、社会科学ではどのような視点から生殖問題を取り上げているのでしょうか。柘植先生の講義の中身、柘植先生の研究人生における考えの変遷、そして指導者として学生に託す思いについて、存分に語っていただきました。

柘植 あづみ さん

柘植 あづみ 先生

1960年生まれ。埼玉大学大学院理学研究科生体制御学専攻博士前期課程修了。お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達学専攻、単位取得退学後博士号取得。現在、明治学院大学社会学部教授。専攻は医療人類学、生命倫理学。著書に『生殖技術――不妊治療と再生医療は社会に何をもたらすか』(みすず書房 2012)、『生殖技術と親になること 不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤』(みすず書房 2022)、共著に『妊娠-あなたの妊娠と出生前診断の経験をおしえてください』(柘植あづみ、菅野摂子、石黒眞里)などがある。

柘植あづみ先生インタビューMOVIE

現実世界は、そうシンプルにはいかない

女性には生物学上、妊娠しやすい時期があり、それを学生のうちから知っているかどうかで、その後の人生の選択に大きな影響を与えます。柘植先生は医療人類学・社会学の観点から妊娠、出産、不妊に関する授業を行っていらっしゃいますが、学生自身の問題として、こうした不妊の知識を伝えることにどのようなお考えをお持ちでしょうか?

まず前提として、私は学生に性教育を行ってはいませんので、「不妊」の医学的な知識を学生たちに直接教えることはありません。ですが、「不妊」が個人にとっていかなる問題として受け止められ、社会・文化的にどのように捉えられているかについては、教え、議論し、問題解決の方法を探っています。

その際に、医療技術が進展すれば子どもができて不妊の問題が解決できるとは考えません。不妊の人がつらい思いをするのは、望んでいるのに子どもができないためだけではなく、不妊治療のつらさ、治療をしてもいつ子どもができるのかわからない不安に加えて、この社会・文化において子どもをもつこと、親になることがいかなる価値をもっているか、子どもがいない人がいかなる評価を受けているかなどについて話します。

学者として30年に亘る研究へのお考えの他に、学生たちへの想いが溢れるように語られる 学者として30年に亘る研究へのお考えの他に、学生たちへの想いが溢れるように語られる

たとえば、不妊は男女双方のさまざまな原因で生じること、誰もが不妊という事態に直面する可能性があるのに、不妊治療では主に女性が治療の対象です。その治療の副作用の情報や、体外受精や顕微授精の成功率の低さが十分に伝えられないこと(インフォームド・コンセントの不十分さ)やジェンダー問題、不妊の人の自己尊重感の低下など、不妊原因だけではなくて、課題は多岐にわたります。

最近、不妊原因として「卵子の老化」がよく話題になります。私は「不妊になるかもしれないから早く子どもをもちなさい」とは決して言いません。妊娠・出産しようと思う年齢があがれば、女性はもちろん、男性も子どもをもちづらくなるというのは、情報としては大事だと思いますが、個人の多様な選択が尊重されるべきです。逆に、結婚したい、子どもをもちたいと思ったときにその障壁が社会にあるなら、それを変えていこうとするのが、社会科学の考え方です。若いから必ず子どもができるわけではありませんし、「若いうちに子どもを産め」と国や行政が押し付けるのはとんでもないことです。

それに、不妊にならないようにと強調することによって、不妊は怖いことだと、脅しのように捉えられてしまう可能性もあります。そうではなくて、結果として子どもをもてなかった人たちが、子どものいない人生を一生懸命に生きていること、不幸ではないことを、インタビューの事例などから知らせます。

医療人類学や社会学では、多様な視点で物事を見る・考えることをトレーニングします。子どもを望んでいる人にとって、不妊は深刻で重大な問題ですが、それを強調することによって、子どもを産まなければならないといった脅し、子どもを産めないことはマイナスだという刷り込みはしないようにしたいと思います。多様な生き方があることを知って欲しいです。

30年も前のことですが、私自身が、子どもは欲しかったけれども病気が理由でできず、不妊の各種の検査をして、自分の人生について考えて、体外受精はしませんでした。もちろん、不妊治療をするのも選択として尊重しています。ただ、私は、体外受精の成功率が低いこと、不妊治療を続けても子どもができないことが少なくないことを知っていたし、不妊治療が心身共に大変なこと、時間もお金もかかることも知っていたので、選択しない決定をしました。30代前半の私にとって、不妊治療よりも大事だと思うことがあったというだけです。

子どもを育てることはすごいことだと思いますし、子どもを望む人にはお子さんができればいいなと本当に思います。でも、子どもをあきらめて新しい人生を歩んだり、養親や里親になる選択をすることも尊重しています。

不妊について考えるにあたり、学生には「将来、自分が不妊になったらどうするか」という視点よりも、むしろ「あなたの家族や大事な人がそうだったらどうしますか?」という視点でまず考えてもらうようにしています。周囲の不妊の人・カップルに対する視線はどんなものだと感じ、それが差別とか偏見とかにつながっていないかを確認する。社会的スティグマといいますが、病気や障がいがある人への差別や偏見は、ジェンダー問題や、人種、民族に対する差別と同じように、マイノリティ(少数派)の問題と関わっているということに気づき、不妊はそれと同様な問題として考えてもらいます。

なぜかというと、学生の多くは「“自分だったら”そうします」、あるいは「“自分だったら”そうしません」と、それまでの不十分な知識と経験だけで意思表明し、かつそれを実行できると思ってしまうからです。ところが現実は、そうシンプルにはいきません。

熱量をもって言葉を紡いでくださる柘植先生から、日頃の授業の様子がうかがえる 熱量をもって言葉を紡いでくださる柘植先生から、日頃の授業の様子がうかがえる

たとえば、学生に脳死臓器移植について問うと、「脳死になったら自分は臓器提供する」と意思表示カードに記入すると答える人が少なくありません。ある学生がそれを親に話したところ、「そんな簡単に決めないで」と止められて驚いた、と話しました。親なら、自分の子が突然に脳死状態になって、臓器提供の意思がドナーカードに書いてあったなら、親は臓器提供する意思をかなえることとそれに抗う気持ちとで深く悩むでしょう。どちらの選択をしても後悔するかもしれません。そんなことを親子で話せた。「親に言われて初めて、自分の考えが浅かったことに気づいた」とその学生は言っていました。

延命治療についてもそうです。別の学生は延命治療中止に「絶対的に賛成」の立場から卒論を書くと言っていたのですが、身近な人が新型コロナに罹り、人工呼吸器の装着を余儀なくされた途端、現実を突きつけられ、その方が快復した後も、ショックで卒論が書けなくなってしまいました。そこで面談をして、「延命治療は中止するのが当然」「人工呼吸器を長期に使用するのは延命治療」というあなたの前提が正しいのか、そこに一度立ち戻って、いろいろな条件、立場、要因を考慮したうえでもう一度考えてみましょう」と改めて指導し、なんとかギリギリで書き上げることができました。

自分以外の立場になって考えるというのは簡単なことではありません。自分が限られた知識と経験から当初抱いていた意見が、深い情報を得て、あるいは経験をして、考察をしていくことで揺らぐ経験はとても貴重なものです。そのときは悩みに悩むと思いますが、でもこうやってより広い視野で考える訓練をしておけば、きっと将来、自分が深刻な選択を迫られたときも、熟考し、相談し、納得したうえで決断することができるはず。学生にはそうした考える力を少しでも身に付けてもらえたらと思っているんです。

肝心なことを教えない現在の性教育

柘植先生の講義を通して獲得した思考力は、学生にとって一生の財産になりますね。一方で、不妊や妊娠、出産を考えるうえで、前提の知識として必要な「性教育」は、中学生などもっと早い段階で踏み込んだ授業が必要ではないでしょうか。

そうですね。もちろん、授業で知識を得ておくことは大切ですが、一方で、「授業さえすればよい」という問題でもないと思っています。というのも、性教育を行うにしても文科省の学習指導要領に従わなければならないと考えられており、今の中学生の保健体育では、妊娠から出産までの過程は教えても、妊娠する行為、つまり性行為について触れることはほぼないし、教えられる教員は少ないからです。

でも今は性交渉を開始する年齢も早くなりましたよね。たとえば性行為をするのに、「好きだったらいい」のか、あるいは「中学生でそんなことをしてはいけない」のかといったどちらかの問題になりがちですが、そんな単純な問題ではありません。相手の同意がない性行為は暴力なんだといわれるようになって、日本もやっとそれが理解されはじめた。

それでも、とくに女性に多いように思いますが、相手が好きなので性行為をしているのか、それとも性行為を断ると嫌われてしまうのが怖いから応じているのか。この二つはまったく違うんだということを本来は伝えなくてはならないのに、肝心の性行為そのものについて触れないのでは、理解のしようがありません。

お互いが同意のうえで性行為するとなっても、性行為には妊娠や性行為感染症のリスクが伴うことがある。妊娠や性行為感染症の知識をもち、それを避けたければ、互いが話し合って、相手を思いやって、行動をするのが必要なことを教えなくてはならない。

性教育は、性行為や妊娠、出産、避妊、中絶を教えるだけではなく、相手を尊重すること、人権を尊重することを伝えないと、同意のない性交、性に基づく暴力、女の人だけに妊娠、出産、不妊治療、避妊、中絶、育児の責任が押し付けられる社会は変わらないままです。

学生の思考に揺さぶりをかけ、考え抜かせる

少子化に歯止めがかかりませんが、不妊治療の保険適用、出生前診断の実施の拡大のニュースに触れ、若い人たちは「産まなくてはいけない」、「産むからには健康な子でないといけない」という社会からのプレッシャーを感じることもあるのではないでしょうか。

生殖医療の技術が進み、妊娠・出産するためのさまざまな選択肢が提示されるようになり、少子高齢社会の課題についても頻繁に報道され、そうした社会的プレッシャーを知らず知らず受けていると思います。「産まなくてはいけない」、「産むからには健康な子でないといけない」というよりも、産めないことへの不安、病気や障碍のある子を産んで育てる自信のなさが目立つように思います。個人にも社会にも余裕がないことを反映しているのだと思います。

生まれてくる子どもの特定の病気や障碍を胎児のうちに調べる出生前検査についても授業で話して考えてもらいます。インターネットをざっと検索して、医療の情報を入手する程度では、きちんと考えることはできないと思います。そこで、私がインタビューやアンケートで知った人たちの選択や悩み、病気や障碍のある子を育てていての経験と感想、出生前検査を受けた経験とその感想などを紹介します。多様な立場からの、異なる意見を知って、その上で、自分の意見をまとめてもらいます。

柘植先生の研究室には、生殖医療や技術の研究資料がたくさん 柘植先生の研究室には、生殖医療や技術の研究資料がたくさん

一般的な不妊治療に「反対」という学生はいないのですが、代理出産となれば、「反対」、「賛成」、「分からない」の3つに分かれるんですね。そこで、あえて「賛成」や、「分からない」と答えた学生に、代理出産した女性の夫や、代理出産した女性の先に生まれた子どもの立場に立たせて改めて考えてもらうと、当初と違う意見を持つことがほとんどなんですね。母親が出産して、生まれた子どもが他の人のもとに移されたことを、その母親の子たちはいかに感じるか、といった問題提起をします。

あるいは「反対」という人に、「代理出産が母と娘の間で行われた場合や、親友の間で行われた場合はどう?」と投げかけると、それもまた意見が変わるきっかけになる。さらに、姉妹間の代理出産で争いが生じた国内外の事例、うまくいっているとされる事例も紹介します。私が直接インタビューした事例なども紹介します。

このように学生の考えにどんどん揺さぶりをかけていくことがとても大事です。思考を深める過程でどの情報の質が高いかを考え、それをどうやって入手し、得た情報をどう処理して次の行動に使っていくかを考えざるを得ませんから。そうした考える力を身に付けるのが、社会科学を学ぶ目的なんです。

何が学生にとって一番大事なのかを常に念頭におかれている柘植先生 何が学生にとって一番大事なのかを常に念頭におかれている柘植先生

もう随分前のことになりますが、卒業して10年以上たった元ゼミ生から、突然メールがきて、「妻が妊娠中で、お腹の子どもに重い障碍があることが分り、どうしたらよいか悩んでいる。医師から説明を受けたけれどもショックで頭に入ってこなかった」という相談を受けたことがありました。そこで信頼する遺伝カウンセラーを紹介しました。最終的にその夫婦がカウンセリングを経てどのような決断を下したかの詳細は尋ねませんでした。でも、悩んだときにかつての私の講義を思い出して相談してくれたのでしょうし、学生時代に講義の中で一つの問題について、しっかりと考えた経験が、そのときの決断にきっと活かされたのではと思っています。

今後、学生たちも、社会からの見えないプレッシャーに戸惑うこともあるかもしれません。ですが、学生時代に「考え抜いた」という経験を糧にして、自分なりの決断をしていってほしいと思います。

大事なのは形ではなく、どれだけ真剣に考えたか

現在、第三者の精子や卵子の提供を受けて生まれてきた場合の親子関係や、生まれてきた子の出自を知る権利を規定する法律案がまさに議論されています。また、誰がこの技術を利用できるのかについても検討課題の一つですが、実際にレズビアンカップルの方が、非配偶者間の精子提供を受けて子を産んでいるという現実に対し、先生はどのようにお考えでしょうか。

30年前であれば、第三者の精子によって子を産む技術は、性的マイノリティの方のためにできた技術ではなくて、男性不妊に悩む夫婦のためにできた技術であり、医療の目的外利用だと私も思ったでしょう。つまり、批判的でした。

でも、もう20年ほど前になるでしょうか、2001年と2003年かな。提供精子によって子どもを授かったという2組の女性カップルに、カナダのバンクーバーとオーストラリアのメルボルンでそれぞれインタビューさせていただけました。その際、とても印象深かったのが、彼女たちが予めよく考え、話し合ったたうえで、提供精子で子どもを持つという決断をしていたということです。なぜ自分たちは子どもが欲しいのか、どう育てていきたいのか、どう育児を分担するか、障碍を持って生まれてきたらどうするか。そもそもなぜ子どものいない生活ではだめなのか。こうしたことをとてもよく考えていらしたんですね。

その後、2011年にアメリカでインタビューさせてもらった女性カップルは、精子バンクで精子提供者を選択していました。その際に、学歴や職歴というよりは、あえて自分たちと同じ白人ではない男性の精子、という基準で選んでいました。なぜかというと、理由がふたつあるのですが、まず、上の子は知人男性から精子提供してもらっていて、その男性がカリブの島の出身で白人ではなかったため、次の子の精子提供者も白人でないことを選んだというのがひとつの理由。ふたつめは、自分たち同性カップルの子は、自分たち二人と遺伝的につながりがないことは明らかなのだから、自分たちに似てなくていいという考えから。さらに、提供者は子どもが成長してから自分がドナーだと伝えても良いという人を選んだそうです。

それよりも、子ども自身にも、自分の出自について考えるきっかけをもってほしいと説明していました。だから、子どもには提供精子で生まれたという事実を伝え、さらにアメリカ社会のなかでまだまだマイノリティであっても、普通とは違う形で生まれてきても、それが悪いことではない、いくつもの文化的な背景をもって生まれてきたことは素晴らしいと子どもたちに伝えていきたいということでした。

出自を知る権利ひとつをとっても、ルールを決めるのは簡単なことではないと思います。でも、彼女たちの話を聴いて、私はこう思うようになったんです。大事なのは、どんなカップルであっても、またはシングルであっても、その人たち、またはその人が子どもを持って育てていくことに対し、どれだけ真剣に考えているか、子どもに事実を伝えていこうとする姿勢が大事なのではないか、と。

日本社会に限らないですが、不妊に直面すると、「普通の家族になりたい」と考える人が多いですよね。そのために、事実を伝えないことがあります。でも、レズビアンやシングルである彼女たちは、世間的には普通でないことを最初から認めて、それでも家族を作って、親子がどうやって幸せになるかを真剣に考えている。

もちろん、性的マイノリティの方が子をもつことへの社会の抵抗はまだまだありますし、生まれた子どもへの風当たりも強いかもしれません。それに抵抗していけるだけの強い気持ちは必要です。でもそんな彼女達であれば、生殖補助医療を使って子どもをもってもよいのではないか、社会がそれを受け入れていくのがよいのではないか、そう思うようになりました。ですから、現在話し合われている生殖補助医療に関する法律 内容の検討も、多様な人がいることを前提で議論すべきだと思っています。

柘植先生の長年に亘る国内外での取材件数は圧倒的。その取材のご経験から語られる言葉は、聞く者の心に届く。 柘植先生の長年に亘る国内外での取材件数は圧倒的。
その取材のご経験から語られる言葉は、聞く者の心に届く。

「不妊=不幸」と決めつけていないか

現在、一部の不妊療施設では、治療の初期段階から患者さんに、不妊治療以外にも養子縁組という選択肢があることを伝えるようになりました。ただ、養子縁組は、不妊治療しても授からなかった場合の最後の選択肢として、高齢で体力的、経済的な不安があるにもかかわらず養子縁組が検討されるケースや、「子どもさえいれば幸せ」という夫婦本位の気持ちで選択するケースもあると聞きます。

そうですね。アメリカの場合は、養子縁組を受けるにあたり親になるための講習を受け、何十時間ものビデオを観たり、セミナーを受けて、育児の方法から子どもの心のケアをはじめ、養子縁組に関する社会的な制度なども予め理解することが前提です。日本ではこの事前教育が十分じゃないのではないか、と思います。そもそも養子縁組は親のための制度ではなく、子の福祉のためという制度への理解もまだまだ行き届いていないと思います。

里親であれば、子どもの養育を始めてからも何か悩みがあれば児童相談所などに相談できます。地域差があるようですが、特別養子縁組が成立して実親になると、そこで福祉の支援がストップしてしまい、親が子育てについての相談・支援を受けられる場が限定される、と聞きました。特別養子縁組が成立したあとも、継続的に家庭への社会的なサポート体制が不可欠ですし、養子縁組を選択した方同士が、安心して悩みや愚痴を言い合ったり、相談できる場が必要ではないでしょうか。

また、特別養子縁組における子どもが「出自を知る権利」を保障するためには、親への支援が必要だと思います。それは、生殖補助医療での、精子提供や卵子提供で子どもをもった人たちへのサポートの参考になるのではないでしょうか。

不妊治療を長く続けていると、どうしても“子ども”という結果を得たいという思考に陥りがちです。

そうですね。1990年代に、9人の女性に、不妊治療を受けた当時からどのような心境の変化があったか、約3、4年ごとに計9年ぐらいかけてインタビューしたことがあります。そこで非常に興味深かったのが、お子さんが出来た方、出来なかった方、両者とも結局同じことをおっしゃっていたことです。

子どもができた方は、「不妊治療中は不妊の自分をダメだと思っていたし、子どもができたら幸せになれると思い込んでいたけど、いざ産んでみるとそれが絶対というわけでもなかった」と。子どもができなかった方も、「子どもがいなければダメだと思っていたけれど、子どもが出来なくても、それはそれで幸せで穏やかな人生だった」と。どちらもが子どもを持つことが絶対ではない、という感想をもっていたんですね。

こんなインタビューもありました。名門の大学を卒業して、やりがいのある仕事に就いて、結婚した女性が、不妊治療を始めてもなかなか妊娠できず、家庭の諸事情や年齢的なこともあり諦めていたのですが、自然妊娠した。それで、そのことを仲の良い友人に伝えたら、すごく喜んでくれ、同時に「かわいそうでみていられなかった」と言われたそうなんです。彼女は「かわいそう」と思われていたことに強いショックを受けたと話しました。不妊であること、子どもが産めないことは、傍から見てかわいそうなことなんだということに気が付いた瞬間だったのでしょう。

このように、まだまだ日本の社会では、不妊はかわいそう、という想いがあるのかもしれません。でも、子どもがいることが幸せで、いないことが不幸なのか。そう思い込むことが、不妊の人たちを苦しめるのではないでしょうか。

「助けて」と言えることも一つの能力

貴重なお話をありがとうございました。改めて最後に、女性がセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)を行使していくには、どのような教育が必要か、柘植先生のお考えをお聞かせください。

そうでうすね。もちろん、決断していく力というのは、最終的には自分で身に付けていくしかないので、授業では教えきれないと思います。それでも、何か大きな決断を迫られたときに、情報を収集する力、人に相談する力、そして、人に「助けて」と言える力を付けることが大事だと伝えています。周りにSOSを発信することは決して恥ずかしいことではなく、それも力なんだ、と。人を助けられる人になりたい、とはよく言われますが、助けてもらうことにも力が必要です。

ご自分の学生の話になると優しい笑顔がこぼれる ご自分の学生の話になると優しい笑顔がこぼれる

私自身、研究者人生のなかでたくさんの方から多様な経験を聞かせていただき、助けてもいただき、当初抱いていた考えが、徐々に変わる経験をしてきました。それが私自身の決断していく力や多角的に考える力にもなってきたと思います。その核になるのは、繰り返しになりますが、どれだけその問題について考え、自分とは違う方の立場に立ち、その方の考えに想像を巡らせたかに尽きます。そのうえで、最終的に自分はどうしたいかと、考えることです。

ご自分の学生の話になると優しい笑顔がこぼれる

生殖補助医療は、それを使えば必ず子どもができるわけではなりません。いばらの道になるかもしれず、いくつもの岐路で立ち止まり、難しい選択をしなければならないかもしれません。ですが、それを自分が十分に情報を得て、相談したり考えたりして、納得したうえで決断することができれば、たとえ当初望んでいたこととは違う結果になったとしても、そのあとの人生を豊かにしていくことができると思います。

ご自分の学生の話になると優しい笑顔がこぼれる
取材 内田朋子
永森咲希(一般社団法人MoLive(モリーブ)代表)
文 内田朋子
写真 村上未知
取材日 2022年6月9日

取材後記

内田朋子 柘植先生が「産めないことへの不安、障碍のある子を産んで育てる不安が大きいのは、個人や社会に余裕がないことの反映」と語られたことにドキリとしました。これは私たち大人、政治の責任でしょうか…。それにしましても、自分がこれまで自己決定していたと思い込んできたこと、家族や周囲によかれと提案してきたことが、実は社会的に望ましいとされがちな価値観や常識の影響を大きく受けていたことに、改めて思い知らされます。
私たちが社会的生き物であることからは逃れようがありません。柘植先生のお話に触れるなかで、多様な価値観を受け入れる社会は、障碍を持つ方やLGBTQの方などに限らず、きっと私たち一人ひとりが生きやすい社会に繋がっていくのだろうと感じました。
柘植先生の講義を聴講された学生さんたちが、社会に出てどんな生き方を選択されるのでしょうか。眩しい想いと同時に、昭和世代の私には、多様性に寛容な社会を用意できるか、宿題を与えられた気持ちです。柘植先生、貴重なお話を大変ありがとうございました。

永森咲希 「その人の立場に立って考えてみる」という言葉は誰にとっても耳慣れた言葉ですが、柘植先生のインタビューに同席させていただき、「“その立場”がどういうものなのかがわからなければ、立ちようがない」ということをあらためて考えさせられました。
柘植先生の大きな教えのひとつが、世の中に数多ある立場を可能な限り知ろうとすることだと心得ました。これから社会へと巣立つ学生に向けて、これでもかというくらい揺さぶりをかけ、情報を得させ、考えさせるその手法の効果は、先生ご自身の30年以上に亘る多くの取材に裏付けされたもの。柘植先生ならではの愛に満ちたものであると感じ入りました。まさに学生の皆さんへのギフトボックスです。開けて手に取るタイミングはそれぞれ違うかもしれませんが、個々に必ず必要になる時がくる。柘植先生の笑顔はその確信に満ちていました。
言葉を尽くして取材に応じてくださいましたこと、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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