「「こう考えたらだめ・・・」ということはないと思うんです。どんな風に感じたとしてもそれは自然なこと。素直にご自身を大事にしていただきたい」

花谷智子 先生(臨床心理士・生殖心理カウンセラー/医療法人 絹谷産婦人科)インタビュー | 2016年5月21日

花谷智子 先生(臨床心理士・生殖心理カウンセラー/医療法人 絹谷産婦人科)

はじめに

花谷智子先生が勤務されていらっしゃるのは、広島市中区本通にある不妊治療専門のクリニック「広島の医療法人 絹谷産婦人科」。ホームページのトップに、こんなメッセージが掲載されています。

「『命(子ども)はつくるものではなく、授かるもの』 赤ちゃんが欲しいと思いながらなかなか「妊娠」できないのは、決して「病気」でも「不自然なこと」でもありません。『妊娠』について一緒に考え、そのための『方法』を選ぶ。私たちはそんな日常の一部になるような、安心して悩みを打ち明けられる場所を目指しています」

患者さんに対する心のケアについて、細部に亘り心を配られている花谷智子先生。花谷先生がいらっしゃる所には、「妊娠」について共に考え、安心して心のうちを話せる、まさにそんな空気が漂っていました。日頃からどのような気持ちで患者さんと向き合われていらっしゃるのか。

花谷智子先生のインタビューをぜひご覧ください。

1.絹谷産婦人科での取り組み、現在の活動に至る背景とは?

臨床心理士でもある花谷さんは、医療法人 絹谷産婦人科で生殖心理カウンセラーの職につかれていますが、具体的にはどのようなお仕事なのでしょうか。

初診時、妊娠時、出産後、また不妊治療中や治療終結時、終結後といったさまざまなステージにいらっしゃる患者さんの心の支援をしています。

具体的にはカウンセリングの実施です。奥様のみのケース、ご主人様のみのケース、カップルお揃いでのケース、それぞれお受けしています。

当院の患者さんだけではなく、外部の不妊の方のカウンセリングも受け付けています。
また、心理教育的な意味で、初診前説明会や体外受精説明会、心理教育セミナー、治療終結セミナーなどの定期的な実施や、不定期ですが患者会も開催しています。

花谷さんが、生殖心理カウンセラーを目指した理由や背景をおしえてください。

私自身、子どもを望んでから約1年間授からず、毎周期の生理のたびに酷く落ち込んでいた経験があります。
結婚すればすぐに授かると思っていたので、妊娠できないことがどれだけ女性の心を揺らすものなのか、身をもって実感しました。

過去私は、作業療法士として病院に勤務し、がん患者さんの緩和ケアに携わっていたことがあります。
「死」を受け入れようと葛藤する患者さんの傍らにいたので、そういう方々を支援するための心理について学びました。

ですが、自分が不妊を経験することで、その「死」に向かう人たちへの支援のベクトルが、「生」を求める人たちへと変化したといいますか。
不妊治療中は、「女性にとって“子どもの存在”っていったい何なんだろう?」とずっと考えていたので、
そんな自分自身の経験を活かせたらという思いもあって生殖心理カウンセラーになりました。

不妊治療をしたにもかかわらず子どもにめぐまれず、子どものいない人生を選択していく女性の心のプロセスを研究する機会に恵まれたことも、今の職を目指すきっかけになっています。

絹谷産婦人科では、生殖心理カウンセラーを中心に、どのような体制で患者さんをサポートされていますか。

守秘義務の関係上、医療スタッフにはカウンセリングの内容を開示できませんが、
医療者と患者さんにとってプラスになる情報は、患者さんの許可を得た上で医療者に伝えるようにしています。

また流産後や移植後マイナス判定を受けた患者さん、あるいは医療者から見てカウンセリングが必要だと思われる患者さんに対しては、
ドクターとナースから「カウンセリング無料券」というものを渡してもらうようにしているんですよ。

また、医療スタッフにもサポートしてもらいながら、心理教育セミナーや治療終結セミナーを定期的に開催することで、
カウンセリングを利用していない患者さんにも不妊症や不妊治療が心に及ぼす影響についてお伝えしています。

不妊は、夫婦を含む家族や周囲との関係性に大きく影響を及ぼすことがありますので、そういった点も含めてお話しするようにしています。

2.患者さんに対して思うこと、職務のやりがい

日頃から患者さんに対して気を付けていることはありますか。またどんなお気持ちで患者さんと接しておられますか。

私は、医療スタッフではないからといって、「妊娠に向けて心の援助だけすればいい」とは思っていません。

妊娠できないことへの複雑な思いや、それに伴う周囲との関係性の変化など、
「今患者さんは何を感じていらっしゃるのか」、少しでも患者さんに近づきたいと思いながら接しています。

また治療の段階等を含めて総合的に患者さんを見ることも大事だと思っています。
患者さんに近づくということは、100%共感するということ。

それには、自分自身の価値観や感情を常に自覚できるように、自分が安定しているかどうかも気をつけています。

今の職務のやりがいとは、どんなことでしょう。

カウンセリングに来られるきかっけは、一般的に「子どもがなかなか授からず辛い」という共通したものかもしれませんが、
直接お話しさせていただく中で、患者さんご自身が「どうしてこんな気持ちになっているのか」、その原因に気づかれることがあるんです。

それはもちろんおひとりおひとり異なりますが、自分の家族との関係性や夫婦のあり方、
また過去のご自分の体験や周囲との人間関係が影響していたなどということもあります。

患者さんご自身がご自分の力で気づかれていく時に、この職務のやりがいを感じます。

患者さんにこうして欲しいと望むことはありますか。

不妊治療をすれば必ず子どもに恵まれるわけではないため、
妊娠できない経験を繰り返すことにより自分に対して無力感を感じ、自己評価が低くなる傾向があるようです。
クライエントさんの多くは、ご自分なりに心身共に調子を整えようと努力されていらっしゃいます。

しかしその努力に結果が伴わず成果が得られないと、「まだまだ頑張りが足りない…」と感じ、
逆に「自分の何が悪いのだろうか」とご自分の中に原因を探し続けてしまうんですね。

努力すれば結果がついてくるというそれまでの経験とは全く違った「何をやっても私には結果を出せない」という体験から、
無力感を感じたり、自分を低く評価する傾向があると考えられています。

妊娠できないのは自分の努力が足りないからじゃない。自分のせいではない」ということをわかっておかれるだけでも、
治療中の心の状態を整えられるのに役立つのではないだろうかと思います。

「こう考えたらだめ・・・」ということはないと思うんです。どんな風に感じたとしてもそれは自然なこと。素直にご自身を大事にしていただきたいと思います。

印象に残っている患者さんとのやりとりはありますか。

治療終結に向かわれている患者さんが、カウンセリングに通われて1年くらい経った頃に、

ずっと終わりにすることを受け入れられなかったし、まだまだ子どもへの気持ちは揺れて行きつ戻りつしていますが、
少しずつだけどデクレッシェンド(音楽の記号>)のようになっていくのかなぁと最近思えてきました。
こういう思いは、人生の最期まで続いていくのでしょうね」と表現されたことです。

カウンセリング開始当初、子どものいない人生を選択しなければならないことはよく分かっているけれど、
受け入れられない気持ちが強かった彼女と約1年カウンセリングを共にして、最も彼女らしい「終結へ向けての自分」を表現してくださり、
彼女のこの1年の変化を感じられた一言でした。

不妊症患者に対して、現在、心のケアは充分だと考えていらっしゃいますか。

当院では、心理士を常勤で置いていつでもカウンセリングを受けられる体制にしていることや、
心理教育セミナー、終結セミナー、患者会を定期的に開催するなど、心のケアの体制としては充実していると思います。

ですが、患者さんはまだまだ「カウンセリングを受けること」への抵抗感をお持ちで、なかなかその抵抗感を払拭することができていないこともあり、
まずこの状態を改善することが心理士の課題だと思っています。

当院は、不妊症の患者さんへの心のケアをとても大切に考えていますので、その方針を最大限に活かした取り組みを常日頃検討しています。

不妊当事者に対するカウンセリングについて、その必要性を含め思われることは?

不妊当事者へのカウンセリングは必要だと思います。

全国の不妊治療専門施設でも、生殖心理カウンセラーや臨床心理士を置く施設も増えてきました。
ですが、カウンセリングが月1回とか週1回しか受けられない体制である等、不妊治療における心のケアは拡大してきましたが、
まだその必要性に関しては十分に理解されていないのかもしれません。

「心理士が居てくれるからいつでも相談できて安心」「いつでも患者さんの心のケアをお願いできる」と患者さんや医療スタッフからも思っていただけるように、
今後も心理士の努力を重ねていく必要があると思います。

3.不妊治療から卒業する患者さんたちへ、どうお声がけしますか?

不妊治療から卒業する患者さんのための卒業式があるとしたら、生殖心理カウンセラーとしてどんな言葉で送り出したいですか。

いろいろと考え悩みましたが、私のカウンセリングルームに来られて卒業していく患者さんには、
ありがとうございました」という言葉が自分の中では適しているように思います。

不妊治療を終わりにせざるを得ない、でも終われない」「受け入れざるを得ない、でも受け入れられない」といった葛藤をかかえるクライエントさんが、
私のカウンセリングルームで1つの区切りに向かわれるわけで。
その大事な勇気ある岐路に付き合せていただけることに、やはり「ありがとう」なんです。

不妊治療をやめて、子どもをあきらめていく患者さんに対してメッセージをお願いします。

不妊治療の終結を決めることや子どものいない人生を選択することは、本当に難しいことで、気持ちの上で「きっぱり」と区切りをつけることは簡単なことではないと思います。
治療の終結を決め子どものいない人生を選択された方々にお会いし、お話を伺ってきた中で、そう感じました。

けれど、みなさん「子どものいない人生を完全に受け入れた」とは思えていないことに気づきながらも、
決して暗い人生を送っておられるわけではなく、その思いを抱えながらそれぞれ素敵な人生を送っておられます。

不妊症の方の心の中にはすでに「心に抱いた赤ちゃん」が存在すると言われています。

その後の人生において様々な思いが蘇ったり、「心に抱いた赤ちゃん」に触れ、気持ちが揺れることがあるかもしれません。
それは心が弱いのではなく、大切なものを失った後の当然の人間らしい反応です。

どうぞご自分を責めず、否定なさらず、そういうご自身も受け入れていただきたいと思います。
私たち生殖心理カウンセラーは、どんなに時間が経っていようともお気持ちをお伺いします。

どうぞカウンセラーの存在を思い出し、いつでも訪ねていらしてください。


インタビューを終えて

花谷さんとはご縁があって、これまで何度かお会いする機会がありましたが、いつお目にかかってもほっとする笑顔を向けてくださり、且つ古くからの知り合いのような物腰で接してくださるその気さくさに、どれだけ心和んだことでしょう。そんな相好を崩す花谷さんの表情が一変するのは、人の話を真剣に聴かれる時。私もインタビューをさせていただきながら、優しい笑顔と真剣な眼差しの両方を向けられるその心地よさを感じずにはいられませんでした。

花谷さんのカウンセリングの中で、大きな信頼感と安心感を得られたからこそ、1年継続して通われる患者さんがいらしたのでしょう。常にアンテナを張り、患者さんに対して何か気づきがあれば率先してそれをカタチにしようとされる花谷さんの熱い思いをひしひしと感じた広島滞在でした。ご自身が経験されたからこその思いかもしれませんね。

花谷さん、素敵なエールをありがとうございました。

インタビュー実施:2016. 5. 21
取材:永森咲希

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