「みなさんの命が「もったいない」と嘆かぬよう、限りある命を悔いなく過ごしていただけるよう、工夫を重ねながら、歩いていっていただきたい」

永野妙子 看護師(東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター)インタビュー | 2015年9月15日

永野妙子 看護師(東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター)

1990年、東邦大学医療センター大森病院勤務。2009年に不妊症看護認定看護師取得。
現在は東邦大学医療センター大森病院、リプロダクションセンター勤務

1.現在の活動に至る背景とは?

永野さんは、なぜこの職種につかれたのですか。

高校3年生で将来について考えた時、自分には会社員はむかない気がしたんです。

若かったのになんだか将来が不安で、手に職をつけようと看護師になりました。
今の不妊症看護認定看護師は、当初私が希望したわけではなく、たまたま異動で男性不妊の外来へ配属になったことがきっかけです。

異動を重ねてきたその流れで、今のこの職務についていますが、私が看護師になった当初から現在まで、
病棟(婦人科・泌尿器科)→救命センター→外来と配属先が変わりました。

外来の中でも泌尿器科外来、婦人科外来、リプロダクションセンターを経験しました。その間にERを担当したこともあったんですよ。
与えられた場所で、与えられたことを頑張ると、”次“がくる”
振り返ってみると、そんな感じがしています。

“次”というのが、不妊症看護認定看護師、生殖医療コーディネーターの道でした。

今の職務のやりがいとは、どんなことでしょう。

生殖医療は、患者さんの人生においての意思決定そのものに関わる、ということになるでしょうか。

私の職場であるリプロダクションセンターには、「安心・安全な医療を通して、全人的なケアを実施します」という理念があります。
私はこの“全人的”という言葉が好きなんですね。

患者さんを、身体や精神の一側面からだけ診るのではなく、人格や社会的立場なども含めた総合的な観点から診てさしあげる、
そんな風に患者さんを支えていけたらいいなと、私自身もこの理念を目標にしているんです。

そういった意味で、生殖に関わる看護業務は、そのご家族の大事な将来に関わることですから責任は大変重いですが、やりがいを感じています。

日頃から患者さんに対して気を付けていることはありますか。

コミュニケーションの取り方です。

「目を見て話す、笑顔で話す、待たせたらごめんなさい」そんな社会の常識的コミュニケーションを見失わず、大事にするよう努めています。
そして、常にお互いが1人の社会人同士だということを念頭におくようにしています。

私が長く関わったのは男性不妊の患者さん、つまり男性の患者さんだったのですが、性別が違うために随分悩んだことがありました。
どうしたら信頼されるかと。その時に最も多くのことを学ばせていただいたのかもしれません。

一般的な看護を通して患者さんから信頼を得るには、疾病がある弱者を守り、包み込むような保護的な関わりが必要とされますが、
男性不妊の患者さんは、弱者でもなく、疾病があるわけでもない。

けれどアイデンティティーが保てず危うくなっていらしたり、どこか崩れそうになられていたり、警戒心を強められたりなさる方がいらっしゃるんですね。
そういった患者さんからは、“人として、社会人として対等に尊重してもらいたい”という気持ちが感じられました。

病気ではないですから、治すというより、相談に行く・相談に乗るという感覚。
また、“共に解決する”という気持ちを、両者がちゃんと持てるかどうか。そういったことが、当時課題でした。

2.患者さんに対して思うこと

ドクターには話しづらい、質問しづらいという患者さんからの意見をよく耳にしますが、それを補うのもナースの仕事だと思われますか。

それもナースの仕事だと思います。

けれどその前に、診察の場においては、患者さんがドクターに質問しやすいように助け舟を出したり、診察室内を質問しやすい雰囲気にすることも必要だと思っています。
このリプロダクションセンターでは、ドクターとナースで意思の疎通がある基本的な関係をつくり、
そこに患者さんを入れて、より良い三者の関係作りを目指しています。

診察の最後に、ドクターから「他に聞きたいことはありますか?」と聞くようにするなど、私たちもチーム体制で努力しているところです。
ドクターが多忙でこの言葉を忘れた時は、ナースがフォローするようにしています。

印象深い失敗談はありますか。

いくつかありますが、どれも患者さんの立場になって気づくことができなかったこと。
これは罪だと思いますね。 
こういう時には罪悪感でいっぱいになります。

患者さんに対して、現在心のケアは十分だと思いますか。

この“心のケア”については十分だとは思っておらず、いつも自問自答しています。
そして、“これでよし”という判断を自分にくだすことは、まだできていません。

患者さんに、(無神経さを感じさせていないだろうか・・・)と、そんなことはよく考えますね。
我々リプロダクションセンターでは、「もっとちゃんとしていこう」という気持ちを、
ドクター、ナース、スタッフ含めたチーム全体で共有しています。そういう温度って患者さんにも伝わると思うのです。

まずは、“医療者が患者さんを大事に思うこと”からではないかと思っています。

ナースができる患者さんへの心のケアとは?

患者さんにとって、病院に来ることそのものが、既に傷つきだと思うんです。患者さんへのケアを放置すると、病院が“傷つきの場”になってしまう。

患者さんに(通院するのが楽しみ・・・)とまで思っていただけなくても、せめて通院が苦痛ではない状態にしなくてはいけないと思います。
今日は受診日だから、今ある不安を話して気持ちを軽くしてもらえる日」とか、「今日受診すれば、あの看護師さんに話を聞いてもらえる」、
今日は痛い注射だから憂鬱だけど、看護師さんのケアが優しいから頑張って病院行こう」などと思えってもらえるような環境づくり、
また患者さんが遠慮しないで質問できるような、感情を表出できるような関係づくりが、心のケアに繋がると思っています。

不妊当事者に対するカウンセリングについて、その必要性を含め思われることは?

カウンセリングは必要だと思っていますし、不妊当事者に対しては、ドクターもナースもカウンセリングマインドを持った関わり方をする必要があるとも思っています。

ただ、「カウンセリング」というもの自体は診察とは別のもので、患者さんが「カウンセリングを受けに行く」という目的のもとに来院することが前提となりますので、
希望者が希望したタイミングでちょうど良くカウンセリングを受けることができるシステム作りが求められると考えています。

私共のリプロダクションセンターでは、毎月第3木曜日の午後13:30-16:30まで、「看護師による不妊相談外来」を開催し、私が担当させていただいています。
病院の患者さんでなくても、ご利用いただけますので、ぜひご利用いただけたらと思います。

3.不妊治療から卒業する患者さんたちへ、どうお声がけしますか?

不妊治療から卒業する患者さんのための卒業式があるとしたら、ナースとしてどんな言葉で送り出したいですか(一言で)。

私は“応援”という言葉が好きなんです。ですので・・・。どんな結果になっても、あなたのその人生を応援し続けます。

不妊治療をやめて、子どもをあきらめていく患者さんに対してメッセージをお願いできますか。

私は、病棟や救急医療の現場でも“命”を見てきました。そして“命”について考え続けてきました。
命を産みだすことも素晴らしいことですが、ご自身の命を慈しむことも大事なことではないでしょうか。命には限りがあります。

みなさんの命が「もったいない」と嘆かぬよう、限りある命を悔いなく過ごしていただけるよう、工夫を重ねながら、歩いていっていただきたいと思います。
私たちは、これからもみなさんの力に、また助けになりたいと思っています。

何かの折には、いつでも相談にいらしてください。応援しています。


インタビューを終えて

「こんにちは!」と溢れるような笑顔で私を迎えてくださった、永野妙子看護師。お忙しい勤務を終えた夜からのインタビューにもかかわらず、明るくバイタリティーいっぱいの永野さんは、丁寧に言葉を選びながらも、豊かな経験と長年抱えてこられた熱い思いをお話しくださいました。

「与えられたところで与えられたことを頑張っていると、“次”がくるんです」そう言いながら屈託なく笑う永野さんは、少女のような笑顔のイメージとはかけ離れた経験を持たれていました。

長年携わられてきたのは、男性不妊と性機能障害。異性である男性への対応で、当時は悩みもとても深かったようですが、手さぐりの看護という闘いの中から、ひとりひとりを対等な人間として尊重する姿勢や、全人的なケアを目指す志を学んだそうです。

永野さんのすっと寄り添う姿勢、人を全人的に尊重する姿勢は、インタビューをさせていただいている私にもひしひしと感じられました。人としても、支援する立場にある者としても、見習わせていただくべき点がたくさん。清らかな心をお持ちの永野さんとのやりとりはとても心地よく、つい時間を忘れて長くなってしまいました。

そんな永野さんとお話してみたい方は、ぜひ東邦大学医療センター 大森病院
リプロダクションセンター内の「看護師による不妊相談外来」へ足を運んでみてください。

「与えられたところで与えられたことを頑張っていると、“次”がくる」
永野さん、素敵な言葉をありがとうございました。私自身もとてもいい刺激をいただきました。これからもぜひ、その笑顔を持ち続けてくださいね!

優しいエールをありがとうございました。

インタビュー実施:2015. 9. 15
取材:永森咲希

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