「不妊という辛い経験をされ、子供をあきらめるという選択をせざるを得なかった方も、その後の人生に対して消極的にならないで欲しい」

後藤哲也 先生(横浜HARTクリニック院長)インタビュー | 2015年3月15日

後藤哲也先生(横浜HARTクリニック院長)

1991 年、東京大学医学部を卒業。1991年〜1993年、産婦人科研修医(東大附属病院分院、都立築地産院、国立習志野病院)。
1993年、アメリカウィスコンシン大学、高度生殖医療施設。1994年〜1997年 、イギリスロンドン大学大学院にて医学博士(生殖遺伝学)。
1998年〜1999年 イギリスロンドン大学産婦人科、2000年〜2001年 オーストラリアモナッシュ大学 体外受精施設を経て、
2002年〜2014年に東京HARTクリニック副院長 就任。2014年、横浜HARTクリニック院長 就任。現在に至る。

はじめに

後藤哲也先生との出逢いは、今から8年前。不妊ピア・カウンセラーの養成講座に通っている時に、生殖医療についてご講義いただいたのが後藤先生でした。ソフトで優しい語り口、且つ医療を専門としている人が少ない受講生向けに、わかりやすく丁寧に教えてくださった後藤先生はとても人気があり、講座の終わりに写真を撮らせていただいたほど(謝恩会では偶然先生の隣の席になり、舞い上がった記憶があります)。

それ以来お目にかかる機会がなく時が流れ、昨年末、私から「三色のキャラメル -不妊と向き合ったからこそわかったこと -」の出版と法人設立のご報告をさせていただいたのが、8年ぶりのコンタクトでした。

先生はすぐに連絡をくださいました。単に連絡をくださったのではなく、8年前私たち同期生がお渡しした色紙をあらためてご覧くださり、私が書き記したコメントを読み直してから連絡をくださったのです。私自身ですら忘れていた当時の自分の言葉を、今度は先生からいただき、新鮮な気持ちが蘇ってきました。

まさに一期一会のような短い時間の講義だったにもかかわらず、ご多忙な先生が私たちの色紙を大事に保管くださっていたことにも驚きましたが、先生が関わる人々、そのひとりひとりの生き方を大事にしてくださる姿勢に、改めて感動しました。そんな後藤先生とのインタビューを掲載させていただきます。

1.不妊治療、終結の時期やタイミング

年齢を含め、不妊治療の終結時期やタイミングについてどのように考えていらっしゃいますか。

年齢的には43歳くらいまででしょう。

時期としては、1年間の体外受精治療において1度も胚盤胞ができず、その原因が卵巣機能(卵子の力)にあると思われる方は、その後の妊娠はかなり難しいと思います。
しかし、妊娠、出産経験のある方や、原因が男性側にある方では、もう少し頑張ってみることもあります。

明らかに治療の継続は無理だと判断された場合、患者さんに伝えますか。

はい、伝えます。

終結について患者さんとお話しされる時、気を付けていらっしゃることはありますか。

患者さんがそれまでの治療について十分に理解しているか、また夫婦間で十分に話し合っているか、
卵子提供・精子提供などの選択肢について考えたことがあるか、その後の子供のいない生活について具体的な想像ができているか等々、
ある程度時間をかけながら、少しずつ終結に向けた話をしていくようにしています。

2.ドクターの取り組む不妊治療の心のケアとは?

ドクターには話しづらい、質問しづらいという患者さんからの意見をよく耳にしますが、先生は患者さんと向き合う時間についてどのように考えておられますか。

私は、患者さんとはできるだけ落ち着いた環境の中で、ゆっくりと話をするように心がけています。
患者さんも遠慮せずに、必要なら転院し、話しやすいドクターを見つけるべきではないでしょうか。

不妊症患者さんに対して、現在、心のケアは充分だと考えていらっしゃいますか。

全体としてみれば十分ではないと思いますが、個々に努力している医療スタッフがいることは確かです。

ドクターができる患者さんへの心のケアとは?

まずは、きちんとそれぞれの患者さんと向き合って、話を聞くことではないでしょうか。

そして、検査、治療について説明し、治療のロードマップをきちんと示します。
患者さんはいつも、「自分は妊娠できるのだろうか」という不安を抱えながら治療を続けているんだという事をよく理解し、
おしつけがましくなく、また不十分にならないよう、「寄り添う」姿勢が重要だと思っています。

「必要な時にはいつもあなたのそばにいます」という思いが伝わるといいんですけどね。

不妊当事者に対するカウンセリングについて、その必要性を含め思われることは?

必要だと思います。しかし、実際にカウンセリングを希望する患者さんは多くありません。
おそらく、カウンセリングがどのようなものか分からないからではないでしょうか。もう少し、具体的な啓蒙活動が必要かもしれませんね。

養子縁組について、また、治療中に養子縁組の情報を患者さんに案内することについて、お考えをお聞かせください。

情報を提供する必要はあると思いますが、医師から話を切り出すことが良いかどうかはわかりません。
精子提供や卵子提供もそうですが、医師から話す場合には、それが誘導や圧力ととられないような配慮が必要でしょう。

3.不妊治療から卒業する患者さんたちへ、先生ならどうお声がけしますか?

不妊治療から卒業する患者さんのための卒業式があるとしたら、どんな言葉で送り出したいですか(一言で)。

「治療を終結しても、〇〇さんであることに変わりはないのですよ。」

不妊治療をやめて、子どもをあきらめていく患者さんに対してメッセージをお願いします。

私は、楽しいことも辛いことも、人生の中で起こる全てのことは、その人の人生において何か意味があると考えています。
不妊という辛い経験をされ、子供をあきらめるという選択をせざるを得なかった方も、その後の人生に対して消極的にならないで欲しい、そう思います。


インタビューを終えて

質の高い医療を提供することはもちろん、患者さんにとって通院することがストレスにならないようなクリニックを目指している後藤哲也先生。「患者さんが治療を振り返った時に、『一緒に全力で戦ってくれた医師がいた』と思ってもらえるように努力したい」そう仰った後藤先生は、8年前の、どんな生徒に対しても丁寧で優しいお兄さんのような先生のままでした。

「このクリニックで妊娠したい」「このクリニックでダメなら諦める」そんな風に思っていいただけたらいいよね。そんな信頼関係を築けるよう、日々努力しなくちゃね。
・・・と、後藤語録は続きました。

元々学生時代は精神科に興味があったという後藤先生。人が好きで、人の心の動きに関心がおありだったと伺いました。ひとりの人間がこの世に誕生する神秘的な分野に進まれたものの、本来持つ人が好き、心を大事にという先生の本質は変わらずそのままお持ちなのだと思いました。

一緒に全力で戦ってくれた医師がいた・・・・多くの患者さんがそんな医師と巡り会えたらいいなと思いながら、インタビューを終えました。

後藤哲也先生、温かいインタビューをありがとうございました。

インタビュー実施:2015. 3. 15
取材:永森咲希

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